２０２０年　夏季茨城県高校野球大会を終えて

 ２０２０年は長らく語り継がれる年となるでしょう。「コロナショック」の年として。
 ２月初旬あたりには、まだそれほどの脅威とも見えず、楽観視する向きも多かった新型コロナウィルスは、次第に猛威を増し、２月末には首相による休校要請があり、茨城県においても３月には卒業式を、４月には入学式を辛うじておこなっただけで、長い休校が続くこととなりました。その間、部活動も中止となり、多くの関係者、ファンの思いをよそに、春の選抜野球大会（春の甲子園）が中止となり、春の関東大会が中止となり、東京五輪、インターハイと各種イベントの延期または中止の決定が続き、日本高校野球連盟が最後まで開催の道筋を模索した選手権大会（夏の甲子園大会）までも高校野球関係者、ファンの皆様の涙と共に、ついに中止となってしまいました。
 しかし、毎日白球を追い汗を流してきた高校球児たち、特に今年の３年生たちにとって、このまま日ごろの練習の証しを奪われたままで引退させるのはあまりにも残念という思いは、誰しもが抱いたものであり、どうにか区切りの大会を開けないものかと考えた結果が、県独自の大会を開くという方策でした。
 茨城県高野連はいち早くその構想を発表し、その構想は「茨城モデル」とも言われました。高校野球はあくまでも学校における部活動の一部、学校活動の一部でありますから、いくら多くのファンがいるからと言っても、学校活動を優先し、その基盤となる生徒たちおよび関係者の健康を最優先に考えなければならないことは自明のことであります。また、３月から５月までの長い休校のため、授業も遅れ、各校においても行事を取りやめて授業を優先するという方針が打ち出させていたところでしたから、授業日には試合を行わず授業のない土日および祝日のみを使用すること（決勝戦のみ平日開催を認めていただきました）などを決めました。
 その他の主な方針は以下の通りです。

 ・開閉会式は行わず、試合前後の整列は９人のみ。試合後の校歌斉唱も行わない。
 ・試合間は１時間開けて、ベンチ、スタンドの消毒を行う。
 ・ベンチ入り２０人の制限は設けず試合に出場できる人数は無制限。ただし密集を避けるため、一度にベンチに入れる人数は１５人までとする。
 ・日本高野連のガイドラインに従い無観客を原則とするが、あらかじめ登録された保護者のみ観戦可とする。
 ・調整日を設けず、雨天等で延期になった場合は途中で打ち切ることもあり得る。

 生徒たち、関係者の健康を最優先に考えつつ学校活動に支障のないようにすることを十分に考え、大会に臨みました。と同時に、これらの方針は、３年生に最後の活躍の場所を与えること、保護者の皆様にも生徒たちの活躍を見ていただきたいと考えて作成したもので、全国の模範になるものであり、全国に誇れる方針であったと思います。
 大会が始まってみると、熱戦が続き、新聞等の報道で見ていると、まるでふだんの夏の大会が戻ってきたかのような錯覚さえ覚えました。しかし、いったん沈静化の方向に向かうかとも思えた新型コロナウィルス感染拡大は、長引く自粛による経済の逼迫に加え、この閉塞状況から何とか出口を求めようと蠢く人々の心理を背景として再拡大しつつあり、現時点では第２波の様相を示しています。高校球児の躍動は嬉しいことではありますが、コロナ対策を最優先にしなければならないことには変わりはありません。現在は、人々の活動を再開させて行くことと、新型コロナウィルス感染抑制を両立させていくことが社会全体に求められる課題となっていると思います。
 一方、今年は全国各地に水害の被害が出るほどに豪雨が続いた異常気象であり、梅雨も長引き、雨天による順延が相次ぎました。そのことにより、大会の日程消化に大幅に支障が生じ、当初に決めた方針通り、ベスト８までで大会を打ち切るという苦しい決断をしなければならなくなりました。その方針を打ち出したところ、高校野球を応援してくれている方々から、高校球児が可哀相だ、せめてあと１日試合を行ってベスト４まで決めた方が良いのではないかとお声を多数いただきました。高校野球を愛する皆様からのお声であり、誠にありがたいことだと思っております。茨城県教育長、教育庁学校教育部保健体育課からの後押しもあり、球場の確保もできたことから、当初の方針では予定されていませんでした８月５日に準々決勝を行い、ベスト４を決するということに致しました。国体の例を見ても、「優勝」とは名乗れなくても、ベスト４となれば、「１位」として表彰することもできます。そうしたメリットも生じることになります。
 大会終盤になって、天候のためとはいえ方針を変えることになり、たくさんの方にご迷惑をおかけ致しましたが、よろしくご理解を賜りたいと存じます。
 そして、未来を見通せないコロナ禍の中でも、一生懸命に白球を追い、貴重な努力の日々を送っている高校球児たちに、これまでと変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げ、ご挨拶と致します。

２０２０年８月５日
茨城県高等学校野球連盟　会長　塚本敏雄